胆・膵疾患

 慶應医学の大きな特徴は、一般・消化器外科、放射線診断科や腫瘍センター、内視鏡センター、予防医療センター、免疫統括医療センターなど診療科間の垣根が低いことです。この特徴を最大限に活かし、診療科の枠を超えて各診療科が強固な協力体制のもと、がん、免疫難病、肝不全・肝移植、特殊内視鏡治療など大学病院特有の難治疾患を適切かつ迅速に診断・治療を進めてまいります。

胆・膵疾患

診療の特徴

消化器内科(胆・膵班)では胆道系疾患、膵疾患を対象とした診療をしております。胆嚢や膵臓の病気は症状が出にくいことから、病状が進んだ状態で発見される傾向があります。また、内視鏡で直接観察のできない臓器であり、体の奥にあることからその診断、治療には高い技術を要し、かつ患者さんに負担をかける検査が多いのが現状です。しかし、最近の胆膵領域における医療、特に内視鏡機器の進歩は目覚ましく、安全で有用な検査が開発されております。当院では最新設備、機器を取り揃えると共に外科および内視鏡センターと協力することで、安全、円滑な内視鏡処置ができるよう十分な体制を整えております。超音波内視鏡を用いた各種診断、治療も積極的におこなっております。 

肝胆膵移植班合同カンファレンス、胆膵班カンファレンスを毎週開催し、各専門科医師とともに治療方針を検討しています。当院ではカンファレンスだけでなく内視鏡検査・治療も内科・外科合同で行っており、診断検査から手術まで滞りのない診療を実現しています。また、抗癌剤治療を要する進行癌についても、消化器内科腫瘍班と共同して迅速な確定診断と適切な内視鏡治療を行うことで早期治療介入が可能となっております。一般的な疾患から特殊な疾患、内視鏡治療が難しい場合まで幅広く患者様を積極的に受け入れておりますので、当院での治療をご希望の方は、かかりつけの先生と相談しご紹介いただけますと幸いです。


胆膵班外来担当医の紹介

岩崎栄典(研究者HP)講師 2001年卒  胆膵班責任者。胆膵疾患診療、とくに胆膵内視鏡処置を専門。外来は火・金曜日午前。 

堀部昌靖(研究者HP))助教 2006年卒 消化器内科肝胆膵班病棟チーフ。胆膵疾患診療、とくに急性膵炎を専門。外来は木曜日。 

川崎慎太郎(研究者HP)助教 2008年卒 内視鏡センター所属。胆膵疾患診療、胆膵内視鏡処置、膵臓癌の基礎研究を専門。外来は月曜日午後。 

町田雄二郎(研究者HP) 助教 2012年卒 胆膵疾患診療、胆膵内視鏡処置、胆道癌の基礎研究を専門。外来は金曜日午後。 

茅島敦人(研究者HP) 助教 2015年卒 胆膵疾患診療、胆管結石処置などの臨床研究を専門。外来は水曜日午後。


紹介いただく医療機関の先生方へ

膵胆道検査に対する需要の高まりとともに、ご紹介いただく患者さんも増えております。当院では胆道観察、治療に有用な最新の胆道鏡(SpyGlassDS)と電気水圧衝撃波結石破砕装置(EHLオートリスTOUCH)を常備しております。また、胆膵疾患の画像診断として最も有用とされている超音波内視鏡検査(EUS)については、積極的に施行しており、当院では、コンベックス型EUS、ラジアル型EUSともに常備しており、患者さんの状況に合わせてフレキシブルに対応しております。

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コロナ禍もあり入院患者さんが少なくなった関係で処置の件数も少なくなりました。最近徐々に内視鏡処置の件数も増えてきております。患者さんが安心して内視鏡検査、入院治療が受けられるように病院として感染予防措置に注力しております。

胆管膵管へのERCP処置困難例(1486件中12件、約0.8%)に対するインターベンショナルEUS (超音波内視鏡下胆管、膵管ドレナージ)も施行しております。当院は膵臓用瘻孔形成補綴材であるHOT AXIOSの使用可能施設となっており、被包化膵壊死の治療に積極的に利用しております。また、合併症が多く高度な技術が必要である内視鏡的十二指腸乳頭切除術については、ご紹介いただいた患者さんを中心に治療適応を見極めたうえで治療をおこなっています。


対象疾患

1)急性胆管炎、総胆管結石   

致死的な急性期疾患であり、当院では夜間休日も含めて迅速な胆膵内視鏡処置が可能な設備・体制を整えております。他の病院からの緊急処置を要する疾患の転送についても対応可能な高次医療機関となっています。どのタイミングで治療をおこなうかは患者さんのその時点の体調や持病等によって検討します。

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 原因となる総胆管結石については、内視鏡で除去することが一般的に行われております。当院では内視鏡を用いて結石を取る治療を得意としています。かなり大きな結石や硬い結石についても、胆管のなかに細い胆道鏡という内視鏡を入れて、結石自体を衝撃波で壊す特殊な処置を行うことが可能です。通常の総合病院や医療センターでは治療が難しい総胆管結石について多くご紹介いただいております。


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また、胃や十二指腸の手術後は消化管の流れ道が通常とは異なった状況となります。通常の内視鏡では治療が難しいため、当院ではバルーン内視鏡を用いて結石処置を行っております。 


2)急性胆嚢炎   

胆石発作、急性胆嚢炎については通常は大学病院よりも地元の総合病院、医療センターで加療されることが多いかと思いますが、大学病院ではありますが当院でも多くの患者さんの対応をしています。一般消化器外科の先生方の努力もあり、腹腔鏡下胆嚢摘出術は毎年100〜130件おこなわれています。

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消化器内科では持病や内服薬の関係で緊急手術ができない患者さんに対して抗生物質を使った入院治療と並行して、感染した胆嚢の中の膿を排出する処置を行います。通常は、皮膚の外からエコーを見ながら感染した胆嚢の中にチューブを入れる治療をおこないます(PTGBDといいます)。この処置で感染した胆汁を外に出すことで症状が改善します。しかし、抗血小板薬や血をサラサラにする薬を飲んでいる患者さんでは、外から針をさすのが危険なことがあります。そのようなときは、内視鏡を用いた感染胆汁の除去をまず行います。カメラを使って、胆汁の出口側からチューブ状のカテーテルを入れて、胆嚢の中まで先端をすすめて、医療用のストローのようなもの(ステント)を挿入して膿を出すような治療をおこないます。技術的に難易度が高い処置であり、内視鏡特有の術後の膵炎といった合併症の危険性はありますが、成功すると患者さんにとっては痛みも少なく生活への支障も少ないといったメリットがあります。

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 急性胆嚢炎の緊急手術については患者さんの体調や持病、その時点での体調などを十分に検討しながら急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドラインに準じて治療を行っております。(一般消化器外科阿部、堀が急性胆管炎、胆嚢炎診療ガイドライン作成委員を担当しています。)

 

3)胆道がん 

黄疸(目が黄色くなること)や腹痛などで精密検査をして発見されることが多く、特に肝門部領域胆管癌という肝臓と胆管の境目にできる治療の大変難しい癌について、当院は全国的に最も多く手術をしている施設の一つです。消化器内科では、一般消化器外科胆道班と協力しながら、正確な診断のために超音波内視鏡、ERCP検査を用いて詳細な検査を担当しています。  手術が難しい患者さんについては、消化器内科腫瘍班の医師と協力して抗癌剤治療を含めた患者中心の集学的案治療を提案しています。腫瘍による閉塞性黄疸や胆管炎は、患者さんのQOLを低下させ、本来の治療を遅らせてしまいます。内視鏡によるステントの挿入やドレナージ処置などの最新の低侵襲な技術をもちいて、体調を元気に維持できるよう体制を整えています。また、慶應病院はゲノム医療中核拠点病院として新しいがん治療であるゲノム医療を推進しています。

 

4)十二指腸乳頭部腫瘍   

内視鏡を用いて病変の範囲と深達度を評価したうえで内視鏡的乳頭切除術を積極的におこなっています。 合併症の多い侵襲性の高い処置ではありますが、当院では年間20例ほど施行しております。とくに「家族性大腸ポリポーシス」に合併した乳頭部腺腫については、その他の腫瘍の対処とともに当院の各セクターの医師が協力して対応しております。これらの経験をもとにして学会や論文へ報告しております。表層型の非乳頭部腫瘍については、低侵襲治療グループと協力して治療しております。(岩崎は、日本消化器内視鏡学会の内視鏡的乳頭切除術ガイドライン委員を担当しております)

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5)膵臓がん診療   

疑われた時点から治療開始までの期間が短いほど治療成績が良いことが報告されております。組織診断が必要な場合は私どもで一泊二日での超音波内視鏡下生検検査(EUS-FNA)を積極的におこなっております。入院後点滴し、鎮静剤、鎮痛剤をつかって少し眠った状態で口からカメラを入れて、胃や十二指腸から細い針で腫瘍を刺し、中の細胞を吸引して病理検査に出します。診断成功率は95%以上と高く、治療方針決定に非常に有用な検査です。(岩崎は消化器内視鏡学会EUS-FNAガイドライン作成委員を担当しています)

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ご紹介いただきましたら、早期に膵臓がんの質的な診断と病期を判断し、肝胆膵合同カンファレンスで画像を含めて各専門家の集まった会議で方針を決めます。手術可能であれば膵臓手術専門の一般消化器外科、手術不可能で抗癌剤治療が必要であれば消化器内科腫瘍班医師と相談をすすめ、適切な治療を選択できるようにサポートいたします。  膵頭部癌では膵臓の中を通る胆汁の流れ道である胆管が潰れてしまい、閉塞性黄疸や胆管炎をきたすことが度々あります。患者さんがつらい症状が出ないよう、また元気に治療を受けられるように、なるべく負担の少ない内視鏡でこれらのトラブルを解決するようにしています。また、膵臓癌は十二指腸も詰まってしまうことがあり、こちらについても私達でステントを挿入する処置を担当しております。

 

6)膵管内乳頭粘液性腫瘍   

見慣れない疾患と思われますが、膵管内乳頭粘液性腫瘍(Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm:IPMN)とは、膵腫瘍の一種で、膵管(膵臓の中にある膵液の流れる管)の中に、乳頭状(盛り上がるよう)に増殖する膵腫瘍で、どろどろとした粘液を産生することで膵臓の中に嚢胞(水の袋)をつくる疾患です。

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健康診断や人間ドックで大変多くの患者さんが膵臓の中の嚢胞(水の袋)として発見され、精密検査目的にご紹介いただいております。「腫瘍」と書いてありますが、いわゆる典型的な膵癌とは異なり、良性から悪性までさまざまな段階で見つかります。ご紹介いただいた場合はMRI検査、造影CT検査、超音波内視鏡検査などをおこない病状をしっかりと判断します。膵管内乳頭粘液「癌」が発生する前に、良性から悪性になりかかっている段階で膵臓切除の手術をすることが重要なポイントです。そのため、画像診断、時間経過、採血結果など複数の情報を集めた上で、合同カンファレンスで方針を検討し、患者さんへ手術をするかどうか情報提供をしています。 一生にわたって症状が現れないことが多いものの、長期間の経過を経て膵がんを発症したり、急性膵炎を発症したりするかたもいます。ご希望によりますが、精査後は定期的な経過観察が必要となり大学の胆膵専門外来や、IPMNを専門的に対応できるクリニックへご紹介することもあります。 

 

7)急性膵炎 

院では急性膵炎に関する全国規模のレジストリー研究の研究責任者をしており、急性膵炎の専門的な医療機関となっています。とくに堀部(助教)は米国で最も高い評価をされている総合病院であるメイヨー・クリニックに3年間留学し、急性膵炎の患者管理、臨床研究を学んで戻ってきました。認定集中治療専門医でもあり、とくに高度な集学的治療を要する重症急性膵炎に対して、集中治療管理、持続血液ろ過透析、動注療法を含め、集中治療室チームと協力しながら、積極的に重症膵炎の治療に取り組んでいます。

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重症膵炎、壊死性膵炎後の膿瘍形成、膵仮性嚢胞に対する低侵襲な内視鏡治療(超音波内視鏡下瘻孔形成術)もおこなっております。膿瘍や嚢胞が大きい場合には細いチューブのみでは効率的に治療ができないことがあります。その際は、ダンベル型をしている金属ステント(瘻孔形成補綴材「Hot AXIOSシステム」)を用いて瘻孔形成術をおこないます。超音波内視鏡で膿瘍を観察しながら、先端の焼灼部分を通電して穴を開けながら膿瘍に処置具を挿入します。この処置により十分な大きい流れ道(瘻孔)を作成することが可能であり、治療効果がより高く、偶発症も少ないことが報告されています。当院は本処置具の認定施設であり、各学会から公表されている適正使用指針に則り使用します。技術的成功率は91−100%とされています。

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また、薬剤とくに免疫チェックポイント阻害薬に合併した急性膵炎についても多くの患者さんの治療を行っております。腫瘍に対する治療として一般的に用いられるようになった免疫チェックポイント阻害薬特有のirAE(免疫関連副作用)の中でも時々見られる疾患であり、ステロイドを中心とし、がんに対する治療が継続できるように腫瘍専門医と協力しながら対処しています。 重症急性膵炎は死亡率が未だに高く、その救命率向上のために急性膵炎の診療ガイドラインが定期的に改定されています。岩崎は膵臓学会急性膵炎分科会委員を担当しており、病状・重症度の判定のため定期的に検討会をおこなっております。 

 

8)膵石症・慢性膵炎 

治療の難しい疾患ですが、内視鏡的治療(膵管ステントの挿入膵管拡張、膵管乳頭切開術、副乳頭処置など)を中心としております。膵石治療については各種ガイドラインにそって、「腹痛がある患者さん」「断酒を守れる患者さん」を対象としております。(注:体外衝撃波結石破砕術(ESWL)については現在当院では施行しておりません。大変申し訳ありませんが必要な患者さんは専門施設へ紹介させていただいております。)

 

9)自己免疫性膵炎・IgG4関連疾患 

1995年に初めて提唱された比較的新しい病気であるIgG4関連疾患の代表的な疾患です。自己免疫による炎症で膵臓がソーセージのように腫れ上がり、中を通る膵管が細くなったり、胆汁の流れ道の胆管が詰まったりしてしまうことで目が黄色くなってしまうことがあります(黄疸)。血液検査ではガンマグロブリンやIgG、IgG4の値が高くなります。また、自己抗体が検出されたり、IgG4関連疾患(硬化性胆管炎、硬化性唾液腺炎、後腹膜線維症、腎症など)を合併したりすることが時々あります。

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 当大学ではIgG4関連疾患・自己免疫性膵炎の診断と治療に力を入れており、多くの患者さんが通院されています。まだわからないことが多い疾患であり、当院では、自己免疫性膵炎の患者さんの診療情報を用いた前向き追跡調査研究を実施しております。前向き追跡調査研究とは、検査内容を詳細にデータとしてまとめ、自己免疫性膵炎の患者様の病態、治療の実態および長期予後を明らかにするのを目的として、経過を観察していく研究です。さらに、自己免疫性膵炎の患者さんは膵臓へのダメージにより膵液分泌が減り、消化不良をきたすことや長期経過後に膵臓が小さくなり(萎縮して)、膵石などができて慢性膵炎になることがあります。そのために臨床研究で膵液分泌を評価するために5分で計測できるシネダイナミックMRI膵液流検査を行っています。興味のある方はぜひご参加ください。 また、慶應義塾大学病院は世界でも有数の炎症性腸疾患の専門施設です。炎症性腸疾患と自己免疫性膵炎の関連も指摘されており多くの患者さんの対応をしています。原因不明の自己免疫性膵炎患者さんの精密検査も積極的に対応しております。 IgG4関連疾患はまだその診断治療についてはわかっていないことも多い疾患です。岩崎は2014年から厚生労働省難治性膵疾患調査研究班の分担研究者、膵臓学会自己免疫性膵炎分科会委員を担当しています。

 

10)交通事故や外傷による膵臓損傷 

当院救急科は第3次救急医療機関として救命救急を担当しており、年間7000件以上の救急搬送に対応しており、外傷に対する緊急手術も多くおこなれています。膵臓損傷はまれな疾患ですが、おとなでは自動車事故、こどもでは自転車のハンドルなどを腹部にぶつけたことで発症することが多く経験されます。膵臓は大切な臓器ですので可能な限り手術をしなくても良いように、内視鏡を使って膵液の流れ道にチューブを入れるなど、膵臓が損傷したところから外に膵液がもれないような処置をおこなっています。

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当院で専門的におこなっている内視鏡治療の紹介

1)ERCP処置(胆管膵管造影、胆汁・膵液の培養検査、細胞診、胆管・膵管の生検検査) 

ERCP検査で造影検査の後に胆管、膵管内の胆汁、膵液を吸引することで、細菌感染の有無を調べる「培養検査」や、顕微鏡で悪性腫瘍がないか調べる「細胞診検査」をおこないます。狭い部分がある場合はブラシでこすって細胞を回収する「擦過細胞診件検査」、生検鉗子で組織を採取する「生検検査」をおこないます。経鼻胆管・膵管ドレナージチューブを入れることで、数日に渡り連続で胆汁と膵液の細胞診検査を行い、早期膵癌や胆管癌を診断いたします。

内視鏡的乳頭切開術(EST):本来は胆管と膵管の出口は食事が逆流しないように細く狭くなっています。結石の摘出やステント(チューブ状の流れを良くする管)や処置具を胆管や膵管に安全に挿入するために、胆管・膵管の出口を広げる必要があります。特殊なカテーテル(ESTナイフ)を挿入後に電気メスを当てて高周波電流を流すことで、胆管膵管出口の括約筋を縦方向に切開して拡張します。結石再発防止効果、ERCP後膵炎予防効果、ERCP再施行時に挿入が容易になる利点があります。また、針状の処置具で切開して出口を広げる処置をすることもあります。

内視鏡的乳頭バルーン拡張術(EPBD):膵管、胆管の出口を細長い風船のついた治療具(拡張用バルーンカテーテル)を用いて広げ、処置具を通過しやすくし、結石除去しやすくする方法です(EPBD)。また、大きな結石を除去するために10mmを超える大きいバルーンカテーテルを使用することもあります(EPLBD)。結石の大きさや患者さんの状況によっては、乳頭切開術とバルーン拡張術を併用します。

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2)胆管、膵管結石除去術 

 結石を先端が網目状になっているバスケットカテーテルや、小さい風船がついているバルーンカテーテルを用いて除去します。結石が大きい場合や硬い石の場合は、機械式砕石バスケットを挿入し、結石を捕まえて細かく砕いてから除去します。結石が大きくて固い場合は一度の治療で処置しきれないことがあり、複数回の治療が必要になることがあり数回の入院に分けて治療することもあります。

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3)内視鏡的胆管、膵管、胆嚢ドレナージ術 

がんなどの悪性腫瘍や結石などにより流れの悪くなった部位の通り道を確保するために、通りを良くする処置具を挿入します。プラスチックステント:様々な形状のものがあり、太さは5Fr(1.6mm)〜10Fr(3.2mm)となります。狭くなっている部分や結石が詰まっている部分を通して適切な形状のステントを挿入して流れを良くします。プラスチックステントは食事や胆汁膵液などにより機能不全に陥ることがありますので、定期的な交換や、トラブル時にはすぐに交換を行う必要があります。自己拡張型金属ステント(SEMS)は細い状態にしたデリバリーシースを用いて目的位置に入れた状態で、網状の金属ステントを留置します。ステント自体が自己拡張することで狭い部分を広げることで、プラスチックステントよりも流れを大きく拡張することが可能です。  

また、経鼻内視鏡的胆管、膵管、胆嚢ドレナージ術もよくおこなわれます。閉塞性胆管炎や閉塞性膵炎をきたした際、感染した胆汁や膵液を確実に吸い出す必要があります。鼻を通すために不快感がありますが、細くて軟らかいチューブを使いますので、しばらくすると不快感は和らぎます。また、胆汁と膵液を数回に分けて検査に出すことができるため、腫瘍や感染の原因を調べることが可能です。体外に出たチューブが曲がってしまったり外れたりしてまわないように注意が必要ですのでスタッフの指示をご確認ください。

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4)経口胆道鏡、膵管鏡観察および結石破砕術:経口胆道鏡、膵管鏡(POCS、POPS)観察および結石破砕術 

治療用内視鏡にもう一本の細い特殊な内視鏡を通して胆管や膵管へ直接挿入します。挿入した内視鏡で実際に胆管や膵管の内側を観察して検査治療を行う方法です。これにより胆管や膵管内の細かい病変を観察したり生検検査を行ったりすることが可能です。また、総胆管結石や膵石を内視鏡で直接見た状態で、電気水圧式破砕処置(EHL)を行うことでバスケットを用いた従来の方法では除去できない、大きく固い結石を壊して除去することが可能です。

 

5)小腸内視鏡によるERCP処置 

胃切除手術、胆管空腸吻合術・膵頭十二指腸切除後で食事の流れ道を改変している場合には、通常の側視鏡では目的の部位にたどり着けません。そのため、小腸バルーン内視鏡(シングルバルーン内視鏡、ダブルバルーン内視鏡)を用いて処置を行います。先端にバルーンがついたオーバーチューブの中を内視鏡をすすめることにより伸びやすい小腸を把持しながらすすめていきます。手術後の処置は難しいことが多く、ERCP処置の成功率は78%程度とされています(国内多施設研究)。

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6)超音波内視鏡下胆道・膵管ドレナージ 

胆管や膵管への処置が通常のERCP処置で困難な場合は、超音波内視鏡を用いて胃や十二指腸より胆管、膵管を確認後、細い穿刺針で穿刺、ガイドワイヤを胆管・膵管へ留置の上で穿刺した経路を拡張してから専用のチューブや金属ステントを留置します(アンテグレード法)。あるいは胆管・膵管へガイドワイヤを挿入して十二指腸まで通し、内視鏡を入れ直してワイヤを用いた処置を行います(ランデブー法)。またもともと経皮経肝胆道ドレナージチューブ(PTBD)が入っている患者さまでは、その内腔からワイヤを通し処置を行うケースもあります。保険適用されていますが難易度の高い処置になりますので、胆道学会によるガイドラインに沿って適切な患者さんを対象に安全重視の上で処置を行います。

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7)胃・十二指腸ステント留置 

膵臓や胃十二指腸の病変によっては胃や十二指腸が狭くなり流れが悪くなることがあります。流れの悪くなっている十二指腸に細い金属性のワイヤを編んで筒状にした自己拡張型メタリックステントを留置することで、食事の通りをよくします。胆汁、膵液の出口も腫瘍などにより閉塞していることも多く、同時に胆管や膵管にもステントを挿入したり、超音波内視鏡下胆道ドレナージをおこなったりすることがあります。

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8)副乳頭・副膵管ドレナージ・拡張 

膵管癒合不全などにより繰り返し膵炎(再発性膵炎)をきたす患者さんについては副乳頭から副膵管を経由して膵液の流れを良くする治療をおこないます。具体的には副乳頭の出口を極細径カテーテルと極細径ガイドワイヤを挿入後に出口を徐々に拡張、切開をおこないながら、最後に膵管ステントを留置します。挿入後は3−6ヶ月毎にステントを交換しながら出口を拡張し、最終的には膵管ステントを除去することを目的とします。副乳頭は出口が小さく、処置の難易度は高く、成功率は低い治療になります。しかしながら代替する治療法が開腹手術による切除となりますので、内視鏡でのアプローチを施行せざるを得ません。安全を担保しながら無理のない範囲で処置を行います。

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胆膵班の最近の業績と社会貢献

社会貢献 

1)消化器内視鏡学会ガイドライン作成委員(内視鏡的乳頭切除術、EUS-FNA、ERCP後膵炎ガイドライン

2)日本膵臓学会膵炎調査研究委員会急性膵炎分科会、自己免疫性膵炎分科会 

3)厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業)「IgG4関連疾患の診断基準ならびに診療指針の確立を目指す研究」班研究分担者

 

研究業績 和文(2021年) 

1)「内視鏡的乳頭切除術診療ガイドライン」Gastroenterological Endoscopy 63巻4号 Page451-480  

委員として参加したガイドラインが出版されました。 

2)「EUS-HGS・HJSの手技とコツ」 胆と膵 42巻4号 Page293-304   

超音波内視鏡を用いた処置についての特集で手技の方法とコツについてまとめてました。 

3)「【内科疾患の診断基準・病型分類・重症度】消化器 急性膵炎」臨床雑誌内科 127巻4号 Page590-592   

急性膵炎の診断基準、重症度に関してまとめて報告しました。 

4)「膵外傷に対する内視鏡治療」 肝胆膵 83巻6号 Page883-892   

膵臓外傷についての当院の経験をまとめて報告しました。

 

研究業績 英文(2021年) 

1)Endoscopic Diagnosis of Biliary Stricture Combined with Digital Cholangioscope: A Case Series. Healthcare. 2021  胆管が狭くなってしまう病状の診断について、胆道鏡を使って診断をする有用性を示した報告です。内視鏡技術の進歩を実感します。 

2)Clinical Practice Guidelines for Endoscopic Papillectomy. Dig Endosc. 2022.私達が協力して作成した内視鏡的乳頭切除術の世界でも初となるガイドラインです。 

 3)Inoperable duodenal ampullary carcinoma: Can endoscopic radiofrequency ablation therapy be a promising palliative treatment in the future? Dig Endosc. 2022. 内視鏡的胆管ラジオ波焼灼術に対する最近の情報と今後の発展への期待について、意見を述べました。 

4)Superiority of urgent vs early endoscopic hemostasis in patients with upper gastrointestinal bleeding with high-risk stigmata. Gastroenterol Rep 2021 上部消化管出血における内視鏡治療をどのようなタイミングで行うかについての研究です。堀部が多施設データをもとに報告しました。 

 5)Endoscopic papillectomy for tumors of the minor duodenal papilla: A case series of six patients and literature review. J Hepatobiliary Pancreat Sci. 2021 東京医科大学の糸井先生、山本先生の共同著者です。十二指腸副乳頭腫瘍の内視鏡的切除症例に関する症例をまとめました。 

 6)Concordance of the histological diagnosis of type 1 autoimmune pancreatitis and its distinction from pancreatic ductal adenocarcinoma with endoscopic ultrasound-guided fine needle biopsy specimens: an interobserver agreement study. Virchows Arch. 2021 倉敷中央病院病理の能登原先生がまとめられた自己免疫性膵炎の病理診断についての研究です。当施設の病理組織検体を多数用いていただき診断制度を検討いただきました。 

7)Successful transpapillary removal of a migrated percutaneous transhepatic biliary drainage tube with a digital peroral cholangioscope. Dig Endosc. 2022. 助教の茅島先生が困難症例に対する内視鏡治療について動画を用いて報告しました。 

 8)Efficacy and factors affecting procedure results of short-type single-balloon enteroscopy-assisted ERCP for altered anatomy: a multicenter cohort in Japan. Gastrointest Endosc. 2022  小腸内視鏡を用いた結石除去術についての埼玉医科大学谷坂先生との共同研究です。国内で最大の後ろ向き多施設研究となりました。 

 9)New strategy for evaluating pancreatic tissue specimens from endoscopic ultrasound-guided fine needle aspiration and surgery. JGH Open. 2021 帝京大学解剖学の竹田扇教授との共同研究で、膵臓癌の組織をもちいた迅速診断法の機器開発についてまとめて報告しました。 

 10)Expert consensus on endoscopic papillectomy using a Delphi process. Gastrointest Endosc. 2021  国際的な内視鏡的乳頭切除術の治療前の診断、治療方法、治療後の経過観察についての意見を取りまとめた研究報告であり、当施設も共同研究として参加しています。 

 11)Impact of Enteral Nutrition Within 24 Hours Versus Between 24 and 48 Hours in Patients With Severe Acute Pancreatitis: A Multicenter Retrospective Study. Pancreas. 2021 1000人以上の重症膵炎の患者さんの情報を用いた発症初期の治療方法に関する後ろ向きの比較検討試験です。日本の実情と治療成績を報告しました。 

 12)Endoscopic Ultrasound-Guided Sampling for Personalized Pancreatic Cancer Treatment. Diagnostics. 2021 膵臓癌の個別化医療についてオルガノイド医学などの最新の情報を交えて解説しました。 

 13)Indication for resection and possibility of observation for intraductal papillary mucinous neoplasm with high-risk stigmata. Pancreatology. 2021 外科阿部先生、北郷先生がまとめられた、当施設でのIPMN患者さんの治療経過、手術、手術後の病理検査結果を集積した報告です。 

 14)External drainage of bile and pancreatic juice after endoscopic submucosal dissection for duodenal neoplasm: Feasibility study (with video). Dig Endosc. 2021 十二指腸腫瘍に対する内視鏡治療について、腫瘍センターとの共同研究の報告です。 

 15)Verrucous esophageal carcinoma is a unique indolent subtype of squamous cell carcinoma: a systematic review and individual patient regression analysis. J Gastroenterol. 2021. 堀部が非常にまれな疣贅状食道癌について行った国際共同研究です。 

 16) Diagnosing Biliary Strictures: Distinguishing IgG4-Related Sclerosing Cholangitis From Cholangiocarcinoma and Primary Sclerosing Cholangitis. Mayo Clin Proc Innov Qual Outcomes. 2021 堀部が留学先のメイヨークリニックの人たちとでIgG4関連硬化性胆管炎と胆管癌および原発性硬化性胆管炎との鑑別についてまとめた内容です。 

 17) Utilization of computerized tomography scan in the management of acute pancreatitis at a large tertiary institution. Pancreatology. 2021 堀部が留学先のメイヨークリニックの人たちと急性膵炎のマネジメントにCTが有用であることを報告しました。 

 18)Impact of Enteral Nutrition Within 24 Hours Versus Between 24 and 48 Hours in Patients With Severe Acute Pancreatitis: A Multicenter Retrospective Study. Pancreas. 2021 堀部が日本の多施設を統括して行っている急性膵炎の研究の一つです。重症膵炎に対して早期経腸栄養の有用性を報告しました。