下部消化管疾患

慶應医学の大きな特徴は、一般・消化器外科、放射線科や腫瘍センター、内視鏡センター、予防医療センター、免疫統括医療センターなど診療科間の垣根が低いことです。この特徴を最大限に活かし、診療科の枠を超えて各診療科が強固な協力体制のもと、がん、免疫難病、肝不全・肝移植、特殊内視鏡治療など大学病院特有の難治疾患を適切かつ迅速に診断・治療を進めてまいります。

下部消化管疾患

診療の特徴

下部消化管グループでは小腸・大腸におこる疾患を対象として診療にあたっています。その中には、大腸がんをはじめとする悪性腫瘍、潰瘍性大腸炎(https://kompas.hosp.keio.ac.jp/sp/contents/000801.html)やクローン病(https://kompas.hosp.keio.ac.jp/sp/contents/000800.html)を代表とする炎症性腸疾患、便秘や過敏性腸症候群のような機能性疾患が含まれます。特に慶應義塾大学病院消化器内科の特徴として、炎症性腸疾患の患者数が多く(2022年1月–¬12月 潰瘍性大腸炎2382名、クローン病845名)、当科が重点をおく疾患領域のひとつです。


炎症性腸疾患(IBD; inflammatory bowel disease)

当院は日本有数のIBD診療施設として日本のIBD診療をリードしています。IBDは狭義では潰瘍性大腸炎(UC; ulcerative colitis)とクローン病(CD; Crohn's disease)に分類されます。IBDは遺伝的素因・腸内細菌・食事などの環境因子によって生じる過剰な免疫応答が原因と考えられています。日本におけるIBDの患者数は年々増加しており、UCは14万人、CDは3万人を超えたと考えられています。若年者が中心の病気で慢性の経過を22万人以上、CDは7就業・結婚・出産など社会的な影響も大きく今後ますますIBDに対する診療ニーズは高まってくると考えられています。
IBDを専門とする消化器内科医は全国的にもまだ少ないですが、当科ではIBD診療の豊富な経験を有するスタッフが集まっておりチームとして診療にあたっているのが大きな特徴です。

炎症性腸疾患の治療は、5-アミノサリチル酸やステロイドなどの既存薬に加えて、炎症を引き起こす細胞やホルモンを標的とした生物学的製剤(抗サイトカイン抗体、抗インテグリン抗体などの抗体製剤)や経口免疫抑制治療(カルシニューリン阻害薬、チオプリン製剤、JAK阻害薬、インテグリン阻害薬)の登場により大きく進歩してきました。当科では生物学的製剤(レミケード®、ヒュミラ®、シンポニー®、エンタイビオ®、ステラーラ®、スキリージ®)の使用実績は1000例以上、チオプリン製剤(アザニン®など)の使用実績は800例以上、JAK阻害薬(ゼルヤンツ®、ジセレカ®、リンヴォック®)の使用実績は110例以上になります。さらに白血球除去療法、その他の免疫調整薬、栄養療法の使用実績も豊富であり、IBDに対する集学的治療が可能です。
(https://kompas.hosp.keio.ac.jp/sp/contents/medical_info/presentation/202208_02.html)。さらに手術が必要な患者さんに対しても術前術後での一般・消化器外科と消化器内科のシームレスな協力体制が整っています

 国際共同試験を含めた新薬の臨床試験も中核施設として数多く行っています。また患者様に還元できる新たなエビデンスを創出するため、国内の主要なIBD診療施設と共同で臨床研究も実施しています。

 IBD診療の豊富な経験は腸管ベーチェット病や膠原病に合併する消化管病変など、その他の難治性腸疾患の診療にも活かされています。


悪性腫瘍

大腸がんの治療は診断、内視鏡治療、手術、化学放射線治療、緩和治療と多岐にわたります。そのため下部消化管グループでは、消化器腫瘍グループ、腫瘍センター(低侵襲療法研究開発部門)、内視鏡センター、一般・消化器外科、放射線診断科・治療科と連携して診断から治療までを行っています。また、大腸がん以外の悪性腫瘍(悪性リンパ腫、カルチノイド、消化管関質腫瘍(GIST))を対象とした診療も実施しています。各専門分野の連携を強め、一人ひとりの患者様にあわせた最適な治療を提供してまいります。各専門分野の取り組みについては、消化器腫瘍グループ(http://www.keio-med.jp/gastro/patient/oncology.html)、内視鏡センター(https://www.keio-endoscopy-center.jp/)、および腫瘍センター(https://cancercenter.med.keio.ac.jp/)のホームページをご覧ください。


過敏性腸症候群

機能性胃腸症に含まれる過敏性腸症候群は、悪性腫瘍や炎症性腸疾患と比べ診断や治療法の開発が遅れてきました。しかし本疾患は一種の現代病であり、いまでは多くの患者さまがその症状に悩んでおり日常生活に支障をきたすことも珍しくありません。最近、過敏性腸症候群に対する新薬も開発されており適切な治療により症状を改善することは十分可能となりました。


対象疾患

炎症性腸疾患

潰瘍性大腸炎、クローン病、腸管ベーチェット病、膠原病に伴う腸病変、虚血性腸疾患、非特異性多発性小腸潰瘍症、セリアック病、家族性地中海熱、アレルギー性紫斑病に伴う消化管病変

悪性腫瘍

大腸癌、下部消化管の悪性リンパ腫、GIST

過敏性腸症候群

その他

感染性腸炎、大腸憩室炎など


外来

IBDbed.jpg当院では休診日を除く月曜から土曜日の毎日、IBDの専門外来を開設しており、急な病状の変化に対しても専門医が中心となって速やかな対応を行っております。また内視鏡センター(リンク)の協力のもとIBDの診療には欠かせない大腸内視鏡もIBDを専門とする医師が行っています

点滴・皮下注射を要する生物学的製剤の外来投与は主に免疫統括センター(当院1号棟3階)で行われます。同センターではIBDだけでなくリウマチや乾癬といった生物学的製剤による治療が必要な患者様を包括的に診療しています。消化器内科、リウマチ内科、皮膚科などが協力体制をつくり経験豊富な医師と看護師により安全に投与が行われます。


入院

IBDの多くは外来治療が可能ですが、症状が悪化したときや手術が必要な時などには入院治療が必要です。適切な治療が行われるよう、週1回IBD診療スタッフが集まり治療法についてカンファレンスを行なっています。さらに週1回教授とスタッフによる回診も行われます。これにより、それぞれの患者様にとって最適な診療を目指します。

また下部消化管グループは週1回一般・消化器外科大腸班と合同カンファレンスを行っており、大腸がん症例や手術が必要なIBD症例に関して包括的な検討を行っています。このカンファレンスには内視鏡センター、腫瘍センター、放射線診断科の医師も参加しており、診療科の垣根を越えて診断・治療の方針を決定しています。