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留学便り

正木克宜先生 - 留学先:Guy's & St Thomas' Hospital

Q1 正木先生の経歴を教えてください

私は2007年に慶應義塾大学を卒業した後に、慶應病院と東京大学医学部附属病院で初期臨床研修を行い、2009年に内科学教室に入局して慶應病院と静岡赤十字病院で1年間ずつ内科全般の臨床研修を行いました。2011年に呼吸器内科に専門を決め、同時に大学院に進学して前教授の別役智子先生、浅野浩一郎先生(現・東海大学医学部内科学系呼吸器内科教授)、鈴木雄介先生(現・北里研究所病院呼吸器内科部長)、現教授の福永興壱先生のもとで経皮感作と気管支喘息に関する基礎研究に従事して2015年に博士課程を修了しました。この研究テーマは湿疹・アトピー性皮膚炎を契機にアレルギー性鼻炎や気管支喘息などの様々なアレルギー疾患が発症する「アレルギーマーチ」の病態解明に端を発しており、アレルギー疾患全体に関する理解を深めたい自分にとってまさに理想的なテーマでした。

大学院修了後は済生会宇都宮病院に出向して呼吸器内科臨床を行いながら、毎年5月に開催される米国呼吸器学会(ATS: American Thoracic Society)での発表をモチベーションとして、真菌感作重症喘息、テクノロジーを用いた禁煙支援、喘息・COPD患者への吸入支援など様々なテーマについての臨床研究を行いました。

その後、日本アレルギー学会から海外留学助成をいただき、2018年に英国・ロンドンにあるGuy's & St Thomas' Hospitalのアレルギー科に留学し、総合アレルギー診療の臨床研修を行いました。2019年から再び慶應病院に戻り、呼吸器内科および2018年に新設されたアレルギーセンターで臨床・研究を行っています。

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Guy's Hospital最上階からロンドン市街を臨む

Q2 留学先での研究や生活について教えてください

英国では成人アレルギー科は独立した診療科として運営され、教育システムが確立されています。留学先では成人アレルギー科はGuy's Hospitalに,小児アレルギー科はSt Thomas' Hospitalにそれぞれ位置しており、私は成人アレルギー科をメインとして、一部小児アレルギー科での研修も行いました。成人アレルギー科のコンサルタント(指導医)は呼吸器科、免疫科あるいは皮膚科の専門研修を終えた後、サブスペシャリティーとして成人アレルギー科で最低5年間のトレーニングを修了しています。一方、小児アレルギー科は小児科の中のサブスペシャリティーとして位置づけられています。

Guy's Hospital成人アレルギー科はコンサルタント、専修医、看護師、栄養士16人からなるチームでした。看護師には自分の外来をもつspecialist nursesも含まれています。成人アレルギー科での臨床研修内容には総合アレルギー、食物アレルギー、薬物アレルギー、アレルゲン免疫療法の各外来の他、食物・薬物負荷試験、小児アレルギー科との合同の移行外来(transition clinic)が行われています。

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ある週の臨床研修スケジュール例

総合アレルギー外来:かかりつけ医(GP)もしくは他院でアレルギー疾患を疑われた患者がまず受診する外来です。対象疾患は喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、食物アレルギー、薬物アレルギー、ハチ刺傷、蕁麻疹など様々です。詳細な問診とそれに続く皮膚プリックテスト、さらに必要に応じて抗原特異的IgE検査や負荷試験の予約までを行います。即時型あるいは遅延型アレルギー反応ではないと考えられる患者も多く受診し、問診や患者の記録した症状の写真などから非アレルギー性疾患の鑑別を行うことが主な業務でした。

食物アレルギー外来:Till教授が担当する食物アレルギー外来では、単一の食物抗原によるアナフィラキシーはもちろん、複数の野菜や果物、穀類、ナッツ類、甲殻類、魚介類に広く症状を示す患者や、抗原が不明ではあるが何らかの食物への即時型反応が疑われるような複雑な病歴の患者を評価していました。複数の野菜や果物に症状がでる患者の多くは、果皮や花粉、ラテックスなどに共通で含まれるタンパク質ファミリー(LTP、PR-10、プロフィリンなど)に対する交差反応を原因とすることが多いため、粗抗原中の中でどの物質がアレルギーを起こしているのかを考えること、すなわちアレルゲンコンポーネントレベルで疾患を理解することの重要性を学びました。特にLTPは加熱や消化に対して安定なため、ジュースやジャムといった加工品に全身性の反応を示す場合にはLTPが抗原であるアレルギーが疑われます。このLTPアレルギーという病態はあまり知られておらず、英国でも日本でも過小診断されている印象です。一方、PR-10やプロフィリンは加熱や消化に対して不安定であるため、症状が口腔・咽頭粘膜などの局所にとどまるときは、これらが原因のアレルギーを考えます。PR-10やプロフィリンが原因の代表的なアレルギー疾患として花粉・食物アレルギー症候群があります。また、嚥下困難が主訴となるアレルギー疾患として知られる好酸球性食道炎に対しては吸入ステロイドの嚥下や栄養士によるsix food elimination dietの指導などが行われます。

薬物アレルギー外来:私のメンターでもあったHaque先生が担当する薬物アレルギー外来では、薬剤の皮膚プリックテストおよび皮内テストにより主に周術期使用薬(鎮静薬、鎮痛薬、抗菌薬)のアナフィラキシーやNSAIDs不耐症の評価を行いました。これらの検査によっても診断がつかない場合には積極的に負荷試験を計画します。

食物・薬物負荷試験:即時型アレルギー反応が疑われるが、皮膚テストや抗原特異的IgE検査で確定診断がつかなかった場合や、診断がついた場合でも安全摂取許容量を確立したい場合には負荷試験検査を行います。月・水・金の終日にallergy day care unitと呼ばれる医師・看護師が常駐する外来ブースで行い、食事や薬物を少量から摂取していきアレルギー反応が起きないかどうかを観察します。NSAIDs不耐症に対するアスピリン減感作療法も行います。遅延型アレルギー反応が疑われる患者さんに対してはパッチテストを行います。

アレルゲン免疫療法外来:花粉(イネ科花粉、樹木花粉)、ダニ、ハチ毒(bee/wasp)を投与して免疫寛容を誘導するアレルゲン免疫療法を行う外来です。舌下免疫療法(SLIT: sublingual immunotherapy)、皮下免疫療法(SCIT: subcutaneous immunotherapy)の両方が行われています。アレルギー疾患に対する唯一の根治的な治療法として、今後の発展が期待されている治療法です。

成人・小児両アレルギー科合同の移行外来:St Thomas' Hospitalの小児アレルギー科にHaque先生と一緒に出向いて、12歳から18歳前後の重症の喘息、花粉症、食物アレルギー患児を小児アレルギー科医とともに診察する外来です。治療や管理の主体が親から患児へと移行する段階で病態理解や治療アドヒアランスに歪みをなくすための役割を担っています。状態をみながら15歳から18歳の時点でGuy's Hospitalの外来へと順次移行します。

このように、抗原・臓器・年齢横断的に様々なアレルギー疾患の診療を通じて、国内では学べない知識や経験を得ることができました。今後は慶應病院でアレルギーセンターの枠組みを生かし、SCITやSLIT、各種抗体医薬の活用など診療科の垣根を超えたアレルギー疾患の評価と治療を実践していきたいと考えております。

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Guy's Hospital正面玄関前で   負荷試験が行われるAllergy day care unit。笑顔は同僚のIason医師

Q3 留学の楽しいこと、つらいことを教えてください

楽しいことは何と言っても日々新しい臨床的経験を積み、知識を吸収できたことです。初診時に十分な問診時間を確保でき、すぐに皮膚テストを行えること。その後に多種類のアレルゲンコンポーネント特異的IgEを測定でき、負荷試験へのアクセスがよいこと。重症喘息、食物アレルギー、薬物アレルギー、難治性の蕁麻疹、接触皮膚炎、好酸球性食道炎など、各アレルギー疾患に対して詳しいコンサルタントにすぐに相談できる体制が整っていることなど、総合アレルギー臨床を実践したかった自分にとってはハード面、ソフト面ともに理想的な研修環境でした。

夕方以降や休日は臨床を離れての楽しみもあります。Guy's Hospitalは慶應義塾大学の姉妹校であるKings College London (KCL) の附属病院でもあるのですが、KCLの剣道部で学生たちに混じって汗を流したり、一緒に大会に出場したりしました。また、ロンドンにある他のいくつかの道場での稽古を通じて多くの友人ができ、渡英前には想像もできないほどの交友関係を剣道がつないでくれました。

また、英国の各所には科学や産業の起源となったスポットがいくつもあります。大英博物館British Museumでは有名なロゼッタストーンやモアイなどに混じってCradle to Grave(ゆりかごから墓場まで)by Pharmacopoeiaという企画があり、ほとんどの人が展示を見過ごす中で内科医の自分としては足を止めて見入らないわけにはいきませんでした。他にも、ペニシリンの発見者であるアレクサンダー・フレミングの実験室をそのまま保存した小さな博物館や、世界標準時子午線で有名なグリニッジ天文台、ワットの作った世界初の蒸気機関が展示されているサイエンス・ミュージアムなど、自然科学に携わる者として興奮度高めのスポットがロンドンにはいくつもあります。他にも英国アレルギー学会で訪れたテルフォードという街には産業革命の始まった場所として世界遺産登録されているアイアンブリッジがあるなど、科学史・産業史を身近に体感できることの素晴らしさが印象に残りました。ロンドンは大都市ではありますが、大きな公園や無料で入れる博物館・美術館が至るところにあり、さらに東京並みに地下鉄とバス路線網が発達していることから、家族で時間を過ごすにも適した場所でした。しばしば酷評される食事も2012年のロンドンオリンピックを境に劇的に改善されたらしく、物価が高いことを除けば生活に不自由はありませんでした。

一方で、体調を崩してSt Thomas' Hospitalに入院となったこともありました。突然の高熱に見舞われてひどく不安な思いをしましたが、異国で医療を受けた体験は今となっては良い思い出です(なお英国では医療費は無料です)。

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剣道仲間と。試合前なので少し緊張。  コンサルタントと同僚たち。私の左隣がメンターのHaque先生

Q4 医局の後輩、入局を考えている方へメッセージをお願いします

私は呼吸器内科を専門として診療をしていますが、アレルギー科医や総合内科医としての視点も持ちながら、臨床と研究に携わっていきたいと考えています。実際に私が今まで取り組んだ研究の中には、ライフワークとして取り組んでいる気管支喘息以外にも症例報告レベルも含めると、細菌、ウイルス、寄生虫などの感染症、アナフィラキシー、悪性腫瘍、気管支鏡、禁煙支援と防煙教育、病薬連携、医工連携等々、多種多様なテーマがありましたが、これらすべてにおいて大学内や関連病院内にそれぞれ詳しい先生がおり、最先端の知識をベースにして研究の計画や論文の執筆を行うことができました。この多様性と寛容性は慶應呼吸器内科の伝統と財産であると私は思います。

今後は私が留学で学んだ知識や得た経験を元に、呼吸器内科やアレルギーセンターでの活動を通じ、今後入局をしてくれる先生と一緒に新たな伝統と財産を創造しなくてはならないと思っています。皆様も、自分の持つ興味対象や探求的姿勢が慶應呼吸器内科の伝統と財産と融合した時、どのような可能性が生まれるかを楽しみに慶應呼吸器内科で臨床と研究を始めてみませんか?

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大英博物館・Cradle to Grave by Pharmacopoeiaの展示には吸入薬もありました!


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