研究紹介(重症筋無力症/炎症性筋疾患)

1)炎症性筋疾患

キーワード:壊死性ミオパチー(iNM)、自己抗体、抗SRP抗体、抗HMGCR抗体、ELISA

炎症性筋疾患の1つ、壊死性ミオパチー(immune-mediated necrotizing myopathy, iNM)の研究を行っています。iNMは炎症細胞浸潤を認めず、筋線維の壊死・再生が中心となる筋病理に基づく疾患です。自己抗体が原因と考えられており、iNMの 診断にはシグナル認識粒子(signal recognition particle, SRP)に対する自己抗体と、3-hydroxy-3-methylglutaryl-coenzyme A reductase(HMGCR)に対する自己抗体の測定が重要です。スタチン製剤、悪性腫瘍、膠原病などが誘因となりますが、病因論的自己抗体の証明はされておらず、iNMの病態機序は不明です。

2010年から国立精神・神経医療研究センター神経研究所疾病研究第一部(西野一三先生)との共同研究「筋炎の統合的診断研究」を展開し、自己抗体の側面から炎症性筋疾患、特にiNMの診断に貢献してきました。これまで我々の研究グループではRNA免疫沈降法や新たなELISAの樹立など、一貫して自己抗体の研究を行ってきました。また全国から診断目的にお送りいただきました検体の自己抗体の測定を行ってきました。しかし、主治医の先生方に 結果をご報告できるのに数ヶ月以上の時間を要しており、患者さんのためにはより迅速な結果報告が必須と考えていました。

このためコスミックコーポレーションと共同で、iNM関連自己抗体を定量的に測定する新たなELISAを樹立しました(図1)。これまでの測定系と比較して新たな測定系では抗SRP抗体は感度98%、特異度100%、抗HMGCR抗体は感度100%、特異度99%と精度の高い測定系になります。 2016年3月からコスミックコーポレーションでiNM関連自己抗体(抗SRP抗体と抗HMGCR抗体)の受託測定を開始していただくことになりました。 ご依頼から2週間以内に結果報告が可能になるため、早期の治療介入が可能と考えています。

コスミックコーポレーション受託測定:https://www.cosmic-jpn.co.jp/contractservice/

図1. iNM関連自己抗体(抗SRP抗体と抗HMGCR抗体)のELISA(正常範囲1IU/ml以下)

抗SRP抗体は1986年にReevesらにより、臨床的な多発筋炎の患者血清から同定されました。膠原病領域の研究から重篤、ステロイド抵抗性、再燃性の筋炎として知られてきました。筋病理はiNMを呈し、神経内科領域では多彩な臨床像を呈する点から、「筋炎」ではなくiNMあるいは「抗 SRP抗体陽性ミオパチー」(anti-SRP myopathy)として考えるべきです。

臨床経過は発症から診断までの期間が約3ヶ月以内の亜急性型から、1年以上かけて緩徐に進行する慢性型まで存在します。慢性型は平均発症年齢が若 く、筋力低下がより重篤で、筋萎縮を認めます。筋萎縮は四肢だけではなく肩甲帯を中心とした体幹にも認められ、一見すると顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー に類似します。また頸部筋力低下が目立つ症例もあり、首下がりの鑑別として念頭にいれる必要もあります。慢性型では筋ジストロフィーとの鑑別が困難な場合 があり、抗SRP抗体の測定が行われず適切な免疫療法が行われない場合には筋力低下は進行し重い障害を遺す可能性があります。

治療は経口ステロイド剤に加え、複数の免疫療法の組み合わせが必要です。本邦での症例を検討した結果、早期から免疫グロブリン静注療法を施行している症例が多いようです。治療により症状が順調に改善していく場合もありますが、無効例や血清creatine kinase(CK)は低下するものの筋力回復が乏しい症例も存在します。治療が奏効しても再燃する場合もあります。

スタチンは脂質異常症に対して広く使用されていますが、10%-25%の患者で筋痛、CK上昇、横紋筋融解症が副作用として出現します。通常、これらの症状はスタチン中止により改善します。一方、スタチン中止にもかかわらず進行性の筋力低下を呈する症例があり、筋病理ではiNMが 特徴的です。 2011年Mammenらは、薬剤を中止しても改善しないスタチン誘発性ミオパチーの症例で、HMGCRに対する自己抗体が検出されることを報告しまし た。抗HMGCR抗体陽性例の中でスタチン誘発の頻度は15%-44%であり、むしろスタチン誘発の頻度の方が低くなっています。

最近の検討ではiNMの中で抗SRP抗体が40%、抗HMGCR抗体が25%を占めています。両者は基本的には同じ患者血清中には存在せず、別々のiNM疾患マーカーです。抗SRP抗体と抗HMGCR抗体に関連した臨床像には共通点も多く認めますが、相違点もあります(表1)。

表1. 抗SRP抗体と抗HMGCR抗体の共通点と相違点

参考文献:

2)重症筋無力症

キーワード:抗Kv1.4抗体、抗横紋筋抗体、胸腺腫、心筋炎、非運動症状

重症筋無力症 (myasthenia gravis, MG) は神経筋接合部において自己抗体が原因となる臓器特異的自己免疫疾患です。アセチルコリンレセプター(AChR)あるいは筋特異的チロシンキナーゼ (MuSK)に対する自己抗体が病態に深く関与しており、これらの自己抗体を測定することはMG診断で必須と言えます。

MGではその他にも多彩な自己抗体が検出されます。抗横紋筋抗体(striational antibodies)といわれ、titinやリアノジン受容体に対する自己抗体が知られてきました。我々は2005年に、横紋筋肉腫細胞を抗原とした蛋白免疫沈降法を確立し、電位依存性カリウムチャネルのαサブユニット、Kv1.4に 対する自己抗体を発見しました(図2)。現在、抗横紋筋抗体の1つとして位置づけられています。抗横紋筋抗体が検出される症例はほぼ全例抗AChR抗体陽 性です。したがって、MGの診断という点では役に立ちません。しかし抗横紋筋抗体は特定の臨床像、合併症や予後との関連が知られています。 

図2. 横紋筋肉腫細胞を抗原とした蛋白免疫沈降法による抗Kv1.4抗体の検出

抗Kv1.4抗体は、MGの12-18%の患者で検出され、特に胸腺腫関連MGで高頻度です。抗Kv1.4抗体陽性 MGは球症状やクリーゼを呈する 重症MGに検出されます。またMGの経過中に致死的不整脈を起こすような心筋炎の血清マーカーとなります。MGはクリーゼを呈するような症例であっても致 死的な疾患ではありません。したがってMG患者さんの死因として心臓合併症に注意しなくてはいけないことを、我々は指摘してきました。その結果、2015 年にLancet Neurology誌に発表されたGilhus教授によるMGの総説(Lancet Neurol 14:1023-1036 (2015))でもこのことを取り上げていただきました。

残念ながら抗横紋筋抗体は実臨床において広く測定されておらず、特定の研究期間で測定されているだけです。我々の研究グループでは抗Kv1.4抗体の測定を継続しておりますので、ご興味のある先生方はご連絡ください。検体がある程度集まった時期にまとめて測定していますので、結果のご報告までにお時間がかかる点を予めご容赦ください。

MGは易疲労感や筋力低化などの骨格筋の症状が中心ですが、その他にも多彩な症状を呈する可能性があります。特に胸腺腫関連MGでは運動症状以外に も辺縁系脳炎、神経性筋強直、赤芽球癆、円形脱毛、免疫不全、心筋炎、味覚障害など胸腺腫由来のT細胞機能異常に基づく様々な病態が出現する可能性があります(図3)。

図3. 胸腺腫由来のT細胞機能異常が原因となる非運動症状の病態機序

我々はMGの症状とは異なる一連の病態を「MGにおける非運動症状 (non-motor symptoms)」と考えています。MGの非運動症状は多くの臓器にまたがり、患者さんのQOLを低下させるものから生命をおびやかす危険のあるものまで多岐にわたっています(表2)。

表2. MGに随伴する非運動症状(non-motor symptoms)

参考文献: